研究概要 |
これまでに,強磁性や反強磁性など簡単な磁気構造を持つ物質の電子構造は数多く計算されてきた。本研究では複雑な磁気構造の電子構造を計算することを目的とした。複雑な磁気構造ではスピン・軌道相互作用が重要な役割を演じることがある。複雑な磁気構造のバンド計算をするには,個々の原子の磁気モ-メントを任意の方向に向けられる計算プログラムが必要である。スピン・軌道相互作用をハミルトニアンに含め,上記の目的を達成するためのプログラムをを完成し以下のような計算を行なった。 1.スピン・軌道相互作用の大きさを直接反映している磁気異方性エネルギ-をFe,Co,Niに対して計算した。遷元ブリリア-ンゾ-ン内の約5万点で,磁気モ-メントの方向を変えて磁気異方性エネルギ-を計算したが,定量的な議論をするには100〜1000倍のR点で計算しなければならず,現在の計算機では無理であることが分かった。しかし,エネルギ-と波数ベクトルRとの関係から次の様なことが理論的に予測可能である。スピン・軌道相互作用を無視したときに縮退したエネルギ-レベルが,この相互作用を考慮したときにフェルミレベル附近で分裂するなうな波数ベクトルRの方向に磁化容易軸が現われる。 2.複雑な磁気構造を持つMn_3MC(M=In,Sn),Mn_4N,MnHgとMnZnに対し,数種類の磁気構造を返定しそれぞれの全エネルギ-を計算すると,観測されている磁気構造が最も安定であることが分かった。また,その電子構造の特徴から,複雑な磁気構造を安定化するのに異ったスピン状態間の混成効果が重要な役割を演じていることが分かった。
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