研究概要 |
大動脈,肺,項靭帯等の弾性線維を構成する主な成分は不溶性の蛋白質エラスチンであり,これを可溶化して得られたαーエラスチンの水溶液は,体温付近の温度で超分子(コアセルベ-ト)の形成を開始する。これはエラスチン生合成における前駆体トロポエラスチンの会合・配列過程に対応した現象と見なす事ができる。 本研究では,まずαーエラスチン水溶液について静的,動的光散乱及び濁度の同時測定を行い,コアセルベ-ト形成に伴う濃度の自発的な揺らぎの変化を追跡した。濁り開始温度をもってコアセルベ-ト形成開始温度Tcとした。測定は散乱角30°〜135°の範囲で15°毎になされた。散乱光強度の角度依存性から外挿して得られた前方散乱強度を用いてスピノ-ダル温度Tsを決定した。これらTc及びTsの濃度に対する曲線,即ち共存線とスピノ-ダル線は,0.1mg/ml,22℃で一致した極小値を示した。この臨界点で前方散乱光強度と相関距離は発散傾向を示した。さらに臨界点付近では,45°以上の散乱角での散乱光強度に極小値が見いだされた。この極小値は,臨界濃度から離れるに従って消失した。一方,揺らぎの緩和時間は温度依存性を示すと同時に散乱角度にも強く依存した。臨界点近傍では,相転移現象に特有な臨界緩和を思わせる急激な増大が見られた。コアセルベ-ト液滴のサイズは,臨界濃度から離れた領域では,Tcまで減少傾向を示し,その後ほとんど一定になった。この事から,αーエラスチン凝集体はまず脱水収縮し,その後集合・配列過程を経ながら成長して行くと考えられる。 現在,これら平衡系で得られた結果を基にして,コアセルベ-ト形成過程をさらに明らかにする目的から,外部制御パラメ-タの急激なジャンプによる非平衡状態からの緩和過程の動力学を,位相差顕鏡像の画像解析により追跡する事を計画している。
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