研究概要 |
本研究は今日大きな問題となっている親潮および亜寒帯循環の異常な南下現象の発生機構を調べ、その発生の予知を可能とすることを目的とした。二年間の研究期間の前半の一年では親潮と亜寒帯循環の発生の機構を明らかにする研究が行われた。その結果、親潮と亜寒帯循環の異常南下の発生はアリュ-シアン低気圧の南偏した形成による風の海面応力の変化によることが示された(関根,1989,Sekine,1990)。また、春の親潮・亜寒帯循環の異常南下の発生の予知は冬のアリュ-シアン低気圧の南偏した形成と津軽暖流の東方への張り出しおよび黒潮続流からの切離暖水渦がともに存在しないことから可能であることが判明した。 親潮や亜寒帯循環の異常南下での北西太平洋の広い海域が低温となり、大気大循環にも大きな影響が示唆される。本年は親潮・亜寒帯循環の異常な南下の発生と大気大循環の変動との関連を主に調べた。その結果として、真冬のアリュ-シアン低気圧の南偏した形成は通常PNAパタ-ンといわれる典的型な大気大循環の変化の一部であり、親潮と亜寒帯循環の異常南下が赤道域のエル・ニ-ニョ現象とテルコネクションを持つグロ-バルな現象であることが示された(関根と鈴木,1991)。PNAパタ-ンはエクアドル沖に暖水が生じるエル・ニ-ニョの発生から一年後の冬に形成される。アリュ-シアン低気圧の南偏した形成はエル・ニ-ニョの発生との関係らも予知できる可能性が示された。一方、北太平洋の亜寒帯循環の南下による低温化によりアリュ-シアン低気圧の南偏した形成が生じることがわかり、正のフィ-ドバックでPNAパタ-ンが強められることが示された。しかし、PNAパタ-ンが生じた年にオホ-ツクの海の海氷面積は平年と比較して小さく、大気の冬の冷却を押さえる。これら一連の大気・海洋のカップルした変化は重要なイベントであるが、その全体の理解には課題が残されている。
|