研究概要 |
強い反応性のため中層大気中はもとより下層大気中でも最も重要な微量大気成分と言われる水酸分子は、他方ではその極微量性のため測定値がほとんど知られていなかった。この研究では波長308nm付近にあるA^2Σ-X^2II(0,0)帯1P_1線、3Q_1線による吸収を太陽を光源として測定し、水酸分子の垂直コラムを定量することに成功した。 測定装置は1.5mダブルパス回折格子分光器とMCP一段付MOSリニアイメージセンサを中心に、太陽追尾器、0.5m集光鏡などから成るシステムで、東京都心にある本郷キャンパス内8階屋上に設置した。分光系の波長純度は1.2pmでこれは成層圏水酸分子のドップラ幅よりやや大きい。ところがこの波長域の太陽スペクトルは100%近い変調を示す強いフラウンホーファー線で満たされており、たかだか数%の地球大気水酸分子の吸収は容易には分離できなかった。この研究ではこの分離のために太陽の自転に起因する太陽スペクトルのドップラシフトを利用する方法を開発した。これがこの研究の最大の特徴となっている。つまり太陽ディスクの東端と西端で測定したスペクトルを比較することによって太陽大気吸収構造を消去し、微弱な地球大気水酸分子吸収構造に関する信号雑音比を1桁半改善することによってコラムの定量を行っている。 追尾系の不良動作、冷却系の能力不足、光学系の劣化、機械系の温度ドリフトと実に様々なトラブルに見舞われたためなかなか実用になるデータが得られなかったが、1992年5月以降安定な測定ができるようになり、現在も定常的な観測を続けている。これまでに得られた垂直コラムは夏・冬の太陽正中時でそれぞれ6×10^<13>cm^<-2>・4×10^<13>cm^<-2>で夏の夕方、太陽天頂角60°時で4×10^<13>cm^<-2>まで減少するような変化を見せている。これらは一次元化学・拡散モデルでもほぼ再現でき、我々の中層大気化学に関する認識が検証されつつある。
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