地球磁気圏で生起する物理現象を解明するために、科学衛星「あおぞら」と「あけぼの」に低エネルギ-粒子分析器を搭載した。この分析器で観測されたデ-タには、極域における興味深い粒子の特性が見いだされている。例えば、イオン・コニックスにおける質量分散、カスプ領域におけるエネルギ-分散、上昇イオンに伴う電子ビ-ムやピッチ角分布の異方性など数多くの例があげられる。これらの現象のメカニズムを解明するために、統計的処理や他の観測デ-タとの比較検討は当然必要ではあるが、単なる観測デ-タの処理だけでは説得力のある解釈はなかなか難しい。そこで、観測された粒子をトレ-サ-とし、その軌道を計算することにより、粒子の起源、加速プロセスや分散過程を検討することが容易に可能となる。本研究では観測された粒子をトレ-サ-とするテスト粒子シミュレ-タを開発した。特に、衛星デ-タのハンドリングやデ-タ表示の点から、ワ-クステ-ションでの処理を目指した。開発した粒子トレ-サを用いて、1989年7月24日に観測されたイオン・コニックスにおける質量分散過程の解明をおこなった。このイオン・コニックスではイオンの質量分散とピッチ角分散が同時に観測されている。粒子トレ-サ-による検討結果は、dawnーtoーdusk電場による質量の大きいイオンほど低緯度側へE×Bドリフトされたため、質量分散が起こることを定量的に示した。また、ピッチ角分散はイオンが加速された高度に依存することも明かとなった。さらに、イオン・コニックスの生成過程に電場加速の可能性を示唆する結果を得ている。 以上示すように、本研究で開発された粒子トレ-サ-は、従来のモデルだけのシミュレ-ションではなく、実際に観測された粒子をトレ-サ-に用いた点が大きな特徴で、今後各種の現象での成果が期待される。
|