研究概要 |
水溶液中のプロトン転移反応は拡散律速反応であり,種々のアミンの比較的希薄水溶液において超音波の緩和現象として観測される。プロピルアミン水溶液にポリビニルアルコ-ル(PVA)を添加した系において,そのプロトン転移反応の速度定数をPVAの濃度、重合度を変化させて決定した。その結果拡散律速の速度定数がPVAの濃度重合度に依存して変化することが明らかになった。即ち一定の重合度PVAにでは,速度定数は特定の濃度で極大となり,また同一PVA濃度でも重合度が増大すると速度定数は再び極大値を示す。これらの結果はPVAの溶存状態が重合度および濃度に依存して異なることを示している。PVAは水酸基を親水グル-プとしているが,ポリプロピレングリコ-ル(PPG)はエ-テル酸素を有し,水にかなり可溶である。PVAとPPGの溶存状態を比較することにより,さらにプロトン転移の高分子による触媒効果が明らかになると考えた。重合度13のPPGの濃度を変化させて,プロピルアミンのプロトン転移反応速度定数を求めた。しかしながらPPGの希薄溶液ではPVAのような明確な効果は観測されなかった。一方比較的濃厚なPPG溶液ではそれ自体に緩和吸収が存在し,さらにアミンが共在するとプロトン転移反応による緩和と重なり吸収スペクトルが複雑になる。PPG溶液の緩和吸収を正確に求めると,プロトン転移反応に基づく吸収のみが独立にとり出せることがになった。そこでPPG共存下のプロトン転移反応の速度定数を決定したところ,拡散律速反応定数が半減することが判明した。この原因はPPGが多量に存在することにより反応種の移動が防げられるためであると考えられる。その他金属イオンの低誘電率媒体におけるトリプルイオン形成の速度論的研究,高次分子集合体の形成過程の解明,アルコ-ル水間の相互作用に関する研究についても本年度進めてきた。
|