研究概要 |
本研究は、金属錯体系分子集合体を固体化学の立場から見直し、新規な物性現象および機能の開発を目指すことを目的とした。具体的には、金属ジチオレン錯体系、および金属ーDCNQI(DCNQI=N,N'dicyanoquinonediimine)系において、以下の興味ある結果を得ることができた。 1.1,2ージチオレン錯体系:多くの金属錯体系分子性超伝導体を生み出しているM(dmit)_2(M=Ni,Pd,…etc.dmit=4,5ーdimercaptoー1,3ーdithioleー2ーthione)錯体分子の末端の硫黄(チオケトン)を原子半径のより大きいセレン原子に置換した。新規πアクセプタ-分子dmis錯体を合成することができた。これは、セレン原子の導入により分子間相互作用の多次元化、onーsiteク-ロン反発の減少を意図したものである。電気化学的デ-タは、後者が実現されていることを示唆している。現在、dmis錯体のアニオンラジカル塩の単結晶作製を計画している。 2.金属ーDCNQI系:πアクセプタ-DCNQIの金属塩(特にCu塩)は、有機低次元伝導系と金属錯体系との接点として特異な性質を持つ。本研究では、特にCu塩の(混合原子価状態の)Cuのサイトに、配位形式は同じで価数の異なるLi^+を混入させた混晶系を検討した。混晶系(MeBrーDCNQI)_2Cu_<1ーx>Li_xではx=0および1では低温で絶縁体に転移するが、xの増加と共に金属ー絶縁体転移温度は、x=0(Cu塩)の時の155Kから降下してきた0.25<x<0.5の領域では、絶縁化が完全に抑制され、4.2Kまで金属状態が安定となるという注目すべき現象を見出した。しかも、C=N(imine)伸縮振動スペクトルによるとDCNQI分子の形式電荷がxの変化に伴いー2/3からー1/2の間を連続的に変化していることがわかった。その他、DCNQIーCu塩の詳細な光電子分光分析(藤森、柿崎(東大)らとの共同研究), ^1HーNMR(鹿野田、高橋(学習院大)らとの共同研究)、反射スペクトル(田島、黒田(東大)らとの共同研究)の研究等を行なった。
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