研究概要 |
ICR法による電子移動反応の平衡定数の測定に基づいて、下記の系の芳香族誘導体の電子親和力(EA)決定し、ラジカルアニオンの熱力学的安定性における構造ー反応性相関を検討した。 ニトロベンゼンのEAに対するLArSR式の適用は、ρ=19.4、r=0.66を与えた。このρ値およびr値は、フェノ-ルおよびアニリン気相酸性度の値によく一致し、ラジカルアニオンのSOMOのπ性が高いことを示唆した。また、その陰電荷の非局在化の挙動もフェノキシドおよびアニリドアニオンに一致していることが明らかになった。 3,5ージメチルー4ー置換ニトロベンゼン系のEAにおいて、3,5ージメチル基の立体障害による4ーニトロ基の共鳴効果の損失(40%)は溶液中に比較して小さいことが観測され、置換基と溶媒との特異的相互作用に起因する共鳴効果(Specific Substituent Solvent Assisted Resonance Effect,SSSAR)も立体障害により減少することが示唆された。 ニトロ基の共鳴効果の立体阻害によりラジカルアニオンが不安定化している2,6ージメチルー4ー置換ニトロベンゼンのEAの置換基効果は、対応するニトロベンゼンに完全に一致し、母体のラジカルアニオンの安定性と置換基効果の挙動は無関係であることが明らかになった。一方、ベンゾフェノンの置換基効果では、ニトロベンゼン系に比較して0.75倍の感度の低下が認められた。これらの事実は、安定なラジカルアニオンほど置換基効果の感応度が低く、また置換基からの共鳴安定化の寄与も低下すると云う従来の結論を否定する。
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