研究概要 |
海洋の物質循環における水平フラックスと鉛直フラックスを推定するために海水中の懸濁態有機物の窒素,炭素安定同位体比を指標にした解析を行った. 懸濁態有機物の窒素同位体比と,炭素同位体比の鉛直分布を三陸沖の暖水塊において比較したところ,第一近似的な鉛直分布のパタ-ンは両者で共通していたが,細かいパタ-ンで違いが認められた. 共通の分布パタ-ンは,双方の同位体比ともに表層で生産された懸濁有機物の生化学的分解に支配されているためと解釈された.また,鉛直分布パタ-ンの細かい違いは窒素,炭素両者の画分における"古い"難分解性の成分の割合が異なっているためと解釈された.つまり窒素同位体比が比較的タイムスケ-ルの短い,物質の鉛直輸送と生化学的分解過程の指標となるのに対して,炭素同位体比はタイムスケ-ルの短い現象に加えてタイムスケ-ルの長い現象によっても支配されており,物質の水平輸送の指標となることがわかった. この結果に基づいて,物質の水平フラックスと鉛直フラックスの量比を推定するための実験,観測を太平洋赤道海域と東京湾湾口において実施した.また前者においては,太平洋中層に存在すると推測される,"古い"懸濁態有機物粒子を14C同位体比の測定によって検証するためのサンプリングを実施した. 東京湾湾口におけるセジメントトラップ実験の結果,沈降粒子束は潮汐によっておおきく影響を受け,上げ潮時にくらべて下げ潮時の方が数倍以上の粒子束を示した.これは潮流によって巻き上げられた陸棚斜面の表層堆積物が湾外に水平輸送され,その後沈降したものと考えられた.沿岸域におけるこのような"潮汐ポンプ"は陸起源物質の外洋への輸送に大きな役割を果たしているものと思われる.
|