研究概要 |
陽イオン界面活性剤が存在するとpH指示薬の変色が正常でなくなることが古くから知られている。この現象は,界面活性剤ミセルの表面で色素の異常な解離が起きるとして説明されてきた。しかし,界面活性剤がミセルをつくらないような低濃度領域においても色素の変色が起きる。そこで,陰イオン性色素が疎水性グル-プをもつ陽イオンと会合したときに変色すると考え,色素の変色から会合定数を求めたところ,次の結果が得られた。 1.陰イオン性色素濃度を一定にし,陽イオン界面活性剤の濃度を変えて吸収スペクトルを求めると,界面活性剤濃度が臨界ミセル濃度以下の領域において,明瞭な等吸収点をもつ吸収スペクトルが得られることが多い。この場合,臨界ミセル濃度を超えると,更に異なる吸収スペクトルが得られる。このことは,陰イオン性色素が界面活性剤陽イオンと会合しただけで変色することを強く示唆している。 2.陰イオン性色素が界面活性剤陽イオンと会合したときに変色すると考え,いろいろな陽イオンと陰イオンとの組み合わせについて会合定数を求めた。このようにして得られた会合定数はイオンの疎水性が増加するにつれて大きくなった。例えば,直鎖アルキルトリメチルアンモニウムイオンでは,メチレン基が1個増すごとに陰イオン色素との会合定数が0.3〜0.4log単位増加する。又,同じ色素が,ー1価の状態で存在するとき,ー2価の状態で存在するときとで界面活性剤陽イオンとの会合定数に大きな差がないことから,大きな疎水性グル-プをもつイオンの会合においては,静電気的な相互作用よりも,疎水的な相互作用が重要である推論される。 3.トリフェニルタメン系色素とベンジル基をもつ陽イオンとの会合においては沈殿生成のため会合定数が求められなかった。このことは,会合に当たってπーπ相互作用も重要であることを示唆している。
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