研究概要 |
天然水中の溶存有機物の半量を占める構造未同定の高分子量物質は、環境中での生物的もしくは非生物的な作用の結果生成したもので、水を媒体とした物質の移動や代謝の進行を反映すると共に、微量元素など共存成分と相互作用することで、それらの物質循環の要としての役割を果たしていると目されている。本研究では、時間的・空間的に変動の大きい天然水中の微量高分子量有機物の化学的性状を記述するために、意味ある量で効率的にこれを分離・捕集することを第一の目的とした。本助成で購入したミリポア社のタンジェンシャル・フロ-濾過装置は、目詰まり等のマイナス点を極力抑え、短時間で大量の水試料を処理できるという利点を備えており、迅速に多数の溶存有機物試料を分離する目的に合致するものである。本年度課題に先行および並行しては、複数の水試料に対する加圧・撹拌方式の限外濾過で分画した各分画の天然水濃度での錯体形成能を測定した。また銅イオンを添加した試水を分子量分画した場合の銅イオンの分布を分析した。この結果、溶存有機炭素の36±9%を占める分子量1,000以下の成分は銅イオンとの相互作用が小さく、29±7%の1,000以上10,000以下と22±16%の10,000以上100,000以下に分画される高分子量成分が銅イオンとの強い相互作用に大きな役割を果たしていることが確認された。そこで、タンジェンシャル・フロ-濾過装置では、分子量1,000以上の成分を分離・回収することを目的とし、ミリポア社のPCACフィルタ-による、都市河川水(2試料)の限外濾過を試み、孔径0.6μmのガラス繊維濾紙で濾過済みの40lの河川水を10時間以内で1lにまで濃縮することができた。1l程度の試水であれば、次段階の分子量分画は、精密な加圧・撹拌方法の限外濾過でも短時間に遂行し得る。今後、炭素量の収支等の濾過効率、ならびに回収された有機物の分子量分布・錯体形成能等の分析を進める予定である。
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