研究概要 |
すでに〔NH_3Pr^i〕_6〔Mo_7O_<24>〕・3H_2O(PM8)で代表されるポリモリブデン酸イオンが固形腫瘍に対し強い増植抑制作用を示すことを見い出してきた。本研究はPM8の抗腫瘍メカニズムを検討するため,テラボ蛋白質の構成要素であってNADH→ユビキノンへの電子伝達系キャリアであるフラビン色素との相互作用,及びPM8の腫瘍マウス波の体内分布測定等を検討することによりポリ酸イオンの酸化還元反応に基づく抗腫瘍機構の裏付けを行った。まず,PM8はフラビンモノヌクレオチド(FMN)と1:1の会合体(生成定数8.9×10^3M^<ー1>)を形成し,会合体の還元電位はFMN自身に比べて約100mVだけ正方向にシフトし,電気化学的に可逆の一電子酸化還元反応を示した。会合体の一電子還元過程は,〔Mo_7O_<24>〕^<6ー>成分の一電子還元種〔Mo_7O_<23>(OH)〕^<6ー>(PM17)を生成し強い細胞毒性を示した。PM8を単独に電気化学的に還元してもPM17は生じず2電子還元種のみが不可逆に生成した。次にMM46を移植した腫瘍マウスについても,PM8を投与後PM8の生体内分布を測定した結果,PM8は腫瘍および腎臓に集中し,i・P・投与後約30分でその分布は最大となることが示され,6時間後には殆ど腎臓を通じて尿中に排泄されることが判明した。このような,PM8が腫瘍に集中することは,FMNとの相互作用の結果を合わせて,PM8の酸化還元サイクルが腫瘍細胞内のミトコンドリアフラボ蛋白質上で発現する可能性を明示しておりポリ酸イオンの酸化還元反応による抗腫瘍機構を強く支持している。一方,ポリタングステン酸イオンはポリモリブデン酸に比べ還元電位はより負であり,生体内でのd^1状態の生成が比較的困難である故,多くのポリタングステン酸イオンに抗腫瘍活性が認められないものと推定された。
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