研究概要 |
研究目的に沿って1,5ーdithiacyclooctaneー1ーoxideーbispentaammineーruthenium(II)を合成した。この化合物は配位子として配化還元により異性化するスルフォキシド基と酸化遷元電位が中間に位置するチオ-ル基をもっている。スルフォキシドのイオウ配位と酸素配位の酸化還元電位は+1.0,0.0Vであった。また、チオ-ル配位では+0.5Vの可逆的な酸化還元電位を示した。スルフォキシドの酸化還元に対する異性化速度はともに約k=40sec^<ー1>であり、従来知られているスルフォキシド系に比べて速い。これらの挙動をよく調べると中間酸化状態は酸化方向でOSRu2ーーRu3+Sが生成し、還元方向でSORu3+ーRu2+Sが生成する。これは酸化還元に対して生成する化学種が別のものであることを示している。つまり、この化合物は酸化還機元に対してヒステリシスを示す。強磁性体のように分子集団がヒステリシス挙動することはよく知られている。これは磁区の境界面が磁場により動き、その磁区の広がりが不純物などにより外部場に非可逆的な追随をして現れる現象である。このように従来知られているヒステリシス現象は分子集団特有のものである。今回発見した分子1個のヒステリシス挙動は初めての例であり、きわめて興味深いものでる。これを分子ヒステリシスと呼ぶことにした。この概念は種々の分野へ影響を与えるものと思われる。また、ヒステリシスをもった化合物が記録媒体として広く利用されているようにこの現象を利用して新しい記憶素子の構築も可能であろう。これが実現されれば、従来のメモリ-に比べて約10^<10>倍もの高密度記録が可能となる。
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