研究概要 |
平成2年度および平成3年度の2年にわたって西日本を中心としてケナガスゴモリハダニおよびススキスゴモリハダニの採集調査を行い,それらの採集個体を飼育して,実験的に雄の攻撃性の定量的測定を行った. その結果,以下のような事実が明らかとなった. 1.2種の亜社会性ハダニ,ケナガスゴモリハダニとススキスゴモリハダニでは明らかに交尾システムが異なっており,前者では探索型一夫多妻制であるのに対し,後者ではハ-レム型一夫多妻制であることが判明した. 2.ハ-レム型のススキスゴモリハダニにおいて,そのハ-レム獲得のための致死的争いの勝者は,第I脚の長い雄であることが実験的に明らかにされた. 3.西日本を中心とした18地域の個体群を調査した結果,ススキスゴモリハダニの雄の攻撃行動には,個体群を採集した地域の冬の温度に相関した地理的変異が存在することが判明した. 4.ススキスゴモリハダニの雄の形態,特に第I脚に攻撃性の地理的変異に平行した長さの変異がみとめられた. 5.1の事実は,当該行動の進化が血縁選択によって生じたということを示す世界的にもきわめてめずらしい証拠であると結論された. 6.2の事実は,攻撃性が血縁選択によって変化した結果,雄の繁殖システムが変化し,それによって雄の武装形質が性淘汰されたことを示すと結論され,これも野外個体群にはじめて発見された性淘汰の証拠であると結論された. 7.副次的な成果として,これまで良好なスライド標本を作ることが困難であったダニ類の標本作成のために,きわめて簡便な固定方法の開発に成功した. 8.上記の研究の成果は,国際生態学会議および国際行動学会議において発表するとともに,すでに2編の論文として公表し,さらに現在3編の原著論文にまとめて投稿中である.
|