研究概要 |
休眠と分散は,時間空間的に変動する環境に対する適応であり,動物にも植物にも広く見られる.これまでの数理モデルでは,休眠率と分散率は別々に扱われており,空間構造も多数の同じ質のパッチから構成されていた.我々はパッチの質が一様でない場合において,休眠と分散のいかなる組み合わせが最適であるかを数理モデルによって研究した.その結果,休眠と分散は,トレ-ドオフの関係となっていることが判明した.また,環境の良好さを表すパラメ-タの値を,最高の値から徐々に小さくしてゆくと,初めは分散で対応し,その次に休眠を付け加えて対応することが分かった.植食性テントウムシ類の文献を調べてみると,数理モデルの予測することが実際に起きていることが分かった.以上の結果をまとめて投稿した.また,環境が変動する場合において,休眠率と分散率が,1.定数,2.密度依存,3.パッチの良さに依存,の場合を数値シュミレ-ションを用いて,どのような環境変動の場合にどの戦略が強いかを解析した.それによると環境変動に最も敏感な戦略が概ね強いという結果を得た.この結果をまとめて投稿予定である.これらの問題の背景と結果の一部を,「動物生態学」(大学院生用の教科書)に入れた. 分散のパタ-ン分昆虫の社会性の関連についても数理モデルによる考察をした.シロアリは全てが兵隊カ-ストを持っているが,養育カ-ストが存在しないことと,巣が不安定でしばしば分散せざるをえないという生息場所の条件との強い相関がみられる.不妊カ-ストが進化するための条件を調べたところ,巣の不安定性が重要な要因となっていることが分かった.また,不妊カ-ストのような利他性が,自らの"意志"によるものか,他個体による"操作"なのかについて長い間論争があった.自分と他個体の間に進化的利益の対立が存在するとき,それがいかに解消されるかという一般的な問題も解くことができた.
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