研究概要 |
生物進化の理論のなかで,原核生物から真核生物への移行過程はいまだに大きな謎に包まれており,細胞内共生進化説と内生的直進進化説とが対立して議論を重ねてきた。筆者らは従来最下等真核藻類と考えられるイデユコゴメおよびその類縁種を用いてその葉緑体DNAの特徴を比較し,単細胞藻類の進化と系統とを追求してきた。本年度はその延長線上において未調査であった東北地方の酸性温泉数ケ所から新たな研究材料を採集し,また米国イェロ-スト-ン国立公園で採集した数標品を入手した。これらの中には数種の新株を含んでおり,今回購入したマイクロマニピュレ-タ-その他の手法を用いてクロ-ン培養を試みた。その結果,従来既に知られていたガルディエリア,イデユコゴメよりもさらに小形のシアニディオシゾンの新種を発見し,この度シアニディオシゾンYRー89と命名して発表した。本種はイタリアで以前報告されたシアニディオシゾン・メロラエと異った細胞構造を有しており,メロラエが棍棒状であるのに対して,くびれのあるヒヨウタン形をしており,別種と考えられる。DAPI染色での蛍光顕微鏡観察によれば,葉緑体核様体は中心部にあり,イデユコゴメの核様体によく似ている。メロラエは二分裂により増殖するが,YRー89型の分裂様式もこれと同様のものと考えられる。YRー89型の電子顕微鏡像では細胞膜系がよく固定され,葉緑体の一重チラコイド構造がはっきり観察でき,この構造はイデユコゴメの葉緑体とよく類似している。細胞の外形は不定形で,細胞膜は見られるが薄く不安定で,細胞壁は認められない。これらの諸結果から考えて,シアニジオシゾン,特にYRー89型細胞が共生宿主としてラン色細菌のような原核生物の共生の結果,進化した可能性について若干の仮説的検討を行ってみた。
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