研究概要 |
本研究は昆虫類の交尾行動と性周期の神経機構解明をめざしたものである。雄コオロギは交尾を終了すると,直ちに交尾不応状態に陥り,以後,1時間は雌に求愛せず,むしろ威嚇的となる。そこでまず,この行動切り替えの解発刺激と受容器官を調べたところ,交尾中,雌雄の生殖器が結合し,雄の交接器内の感覚毛が雌の交尾乳頭で圧迫されることによって精包の放出がおこることが明らかとなった。これにより,精包放出を継起として腹部最終神経節で生じる神経活動の変化が交尾不応状態の基礎にあると考えられる。このため,雄の交接器内感覚毛を刺激し,精包放出前後の上行性感覚神経の記録を行うことを試みた。つぎに,不応期維持に関与する神経修飾物質の探索を行った。現在までに明らかになったことは,第1に交尾不応期における上行性ニュ-ロンの自発性スパイク発火が減少すること。おそらく特定のニュ-ロンが発火を停止するためと思われるが,そのタイプはまだ同定できていない。第2に不応期形成に関与する物質として,生体アミンと関連物質を腹腔内に注入( ^<10>M^<ー3>,30ー60μl)した。その結果,セロトニンは不応期を約5分延長させた。つぎに,セロトニン前駆体の5ヒドロキシトリプトファンは逆に約10分短縮させた。他に,紫外線照射セロトニンやセロトニン涸渇剤5ー7デヒドロキシトリプタミンでも同様の短縮をおこした。不応期の短縮は断頭標本でより顕著にみられた。その他,メラトニン,ヒスタミン,また,cAMPやcGMPは効果がなかった。以上より,セロトニンが不応期の形成になんらかの関与をもつことは示唆できるが,それが直接タイマ-機構に作用しているかどうかは未だ不明である。
|