研究概要 |
本研究の目的は,東北日本の中生代付加体(渡島帯・イドンナップ帯・北部北上帯)の中に認められる,泥注入・砂岩シル-岩脈・液状化構造などの流体の関与した流動現象を記載し,付加体内部での間隙水の挙動について考察することにある. 泥注入:泥注入によって形成された小規模な含礫泥岩体群が,渡島帯白神岬地域で観察される.それはタ-ビダイト互層や緑色岩体の中に注入し,形態は分岐する薄い小岩脈(-フィルム)であるが,母岩中に不規則な網状形態で滲み込む場合もある.母岩の砕屑岩互層は明らかに注入イベント以前に構造変形している.含礫泥岩の包有物にはジグソ-パズル構造を示すものもある.このような貫入/注入現象は,付加体の比較的深部のデコルマ帯で,相対的に固結の進んだ母岩中に過剰な間隙水圧を有した“underconsolidated"な泥が液状化することによって生じた. 砂岩シル-岩脈:粗粒砂岩のシル/岩脈群が渡島帯折戸浜地域のタ-ビダイト互層の中に認められる.これらは次のように区分される.岩脈-シル漸移タイプ・分岐脈タイプ・膨縮小岩脈群タイプ・厚板状タイプ.シルの中には,数本の分岐した注入脈を伴う特異な“貯留"構造が認められる.これらは,高い間隙水圧を有した液状化した砂が半固結状態の堆積物中に“手動ポンプ"のように押し込まれ,その間隙水圧が母岩の強度を越えた時点で水圧破砕を伴いながら注入したものと考えられる. このほかに,液状化-流動現象・砂ダイアピル・“墨流し"構造・チャート岩体と砕屑岩との接触関係,などについて検討した. これらの液状化-注入現象の存在は,付加体内部で含水堆積物の流動(-貫入)が広範に行なわれていることを示すものである.このことは,付加体に特徴的な混在地質体の形成メカニズムに,間隙流体の挙動が深く関与していることを示唆している.
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