研究概要 |
本報告書では,日本産第四紀食虫類化石の系統・分類学的研究の結果明らかになった日本列島の第四紀食虫類動物相の変遷史の概要をまとめた。すなわち,日本列島の第四紀の洞窟・裂罅堆積物から産出する食虫類化石は,ハリネズミ属の一種,シントウトガリネズミ,チビトガリネズミ,カワネズミ,ニホンモグラジネズミ,シカマトガリネズミ,ジネズミ,ジネズミ属の一種,ヒメヒミズ,ヒミズ,ミズラモグラ,モグラ属の12種類に分類されるが(モグラ属は,さらに2種以上に分類できる可能性がある),これらの種類の時代ごとの産出状況をもとに,次のような動物相の変遷史を復元した。 中期更新世中期の動物相は,絶滅種のニホンモグラジネズミと現生種のヒミズが豊富という特徴が見られる。さらに,この時期の動物相にはシカマトガリネズミや現在の日本には見られないハリネズミ属などが含まれている。中期更新世後期の動物相は,本質的には中期更新世中期の動物相と同様の特徴をもつが,その中に含まれる若干の種類がもはや見られなくなっている。後期更新世の動物相ではニホンモグラジネズミが著しく減少し,シカマトガリネズミがその後半で見られなくなる。また,後期更新世後期には,現在の高山に点々と分布するシントウトガリネズミやヒメヒミズが顕著に増加し,それらは現在よりはるかに広い分布域をもっていたことが推定される。完新世の動物相になると,ヒミズとモグラ属が優勢となり,絶滅種はもはや見られなくなる。また,上記の高山に分布する種も平地ではほとんど見られなくなる。
|