研究概要 |
1.ヒマラヤ系の鱗翅類が生息する照葉樹林などを次の地域で調査した。三重県松阪市と海山町、対馬、奄美大島、沖縄島、八重山諸島、国立科学博物館所蔵のネパール、インド、台湾などの資料標本を比較研究し、分布パターンを検討し6編の論文を公表した。2.ヤガ科イワアツバ属は中国南西部に数種が知られていたが、日本でも発見され新種であった。本州中部の石灰岩地帯に局地的に産し、ツゲが食草で台湾から発見した種もツゲを食べる。本属の特異な分布パターンはツゲ類の天然分布と相関がある(Owada,1991)。3.台湾の山岳地帯にいるマダラガAgalopeの再検討をした(Owada,1992)。従来3種知られていたもののうち、ヒマラヤのものと同一種と扱われていたものが独立種と判明した。4.インド・ヒマラヤから記載命名されたものを検討し、日本のクルマアツバ亜科の学名を整理した(Owada,1992)。5.対馬の調査で台湾の固有種タイワンルリチラシ(マダラガ科)の対馬特産亜種とされていたものを再検討した結果、まったく別の種で、ヒマラヤ地域から中国に分布する種に近縁であることが判明した。ヒマラヤ系の昆虫が、台湾や日本のような大陸の辺縁部で種分化を起こしたり遺存的に残存している例と考えられる(Owada&Horie,1992)。6.日本特産で1属1種とされていたヤガ科のHemiglaeaが、ネパールとインド東部に1新種、台湾に2新種分布することがわかった(Owada,1993)。典型的なヒマラヤ系のもので、北海道にまで分布を広げている稀なケースである。7.ショウジガ科(Ratardidae)はヒマラヤから東南アジア、台湾に分布するが、標本がたいへん少なく、雄が不明で分類学的所属をめぐって論議を呼んでいた。ドクガ科とされていた台湾産の雄が本科のものと判明し、ヒマラヤまで広域に分布している可能性が明らかになった(Owada,1993)。
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