研究概要 |
日本列島の基盤をなす地質体は,陸源の砕屑性堆積岩の中に,大小様々の層状チャ-トや石灰岩あるいは緑色岩(玄武岩)の岩塊をふくむ、いわゆる混在岩相である。層状チャ-トは放散虫などの珪質遺骸の集積で形成された遠洋性堆積物であって,海洋プレ-トの移動によって沈み込み帯(海溝)までもちこまれ,そこで付加したものである。ジュラ紀および白亜紀の付加体について調査を行なったが,層状チャ-トは例外なく泥質岩中のブロックとして産出し,明らかに異地性であることが野外において確認された。異地性層状チャ-トの付加に関連して,秩父帯北帯においていろいろな低温型の変形組織がチャ-トの中に保存されていることが見いだされた。それは,波動消光,張力劈開、リ-デル・シア,スタイロライトなどである。層状チャ-トは一般に破砕されており,破砕面には基質の泥質岩が侵入していて,付加作用が高い間隙水圧の下でおこったことを示している。また,関東山地において,チャ-ト卓越相中に,phlogopiteとapatiteを主とする特異な岩石が発見された。これは世界でも記載されたことのない岩石で,残存鉱物としてphlogopiteやkaersutiteやclinopyroxeneなどをふくんでいる。にも拘らず,chlorite,magnesioーriebeckite,stilpnomelaneなどの変成鉱物が生じている。残存鉱物のphlogopiteのKーAr年代は258±13Maおよび242±12Maで,層状チャ-トと同じように,その岩石が異地性であることを示唆している。さらにそのような古い年代が保持されていることは,付加作用がやはり低温条件下でおこったことを示している。こうした事実から,深海底で形成された層状チャ-トは,海洋プレ-トの沈み込みで,ジュラ紀に東アジア大陸縁に付加し,地下深部に破砕されながらもちこまれ,低温高圧型の変成作用を受けたと考えられる。層状チャ-トの賊存状況は,活動的収束境界の一般的な地質形成過程をあらわしている。
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