研究概要 |
本年度の研究では,当初予定していたダイヤモンド丁貝の摩耗プロセス解明にまでは至らなかったが,これを行う為の準備段階として以下の成果を得た。 1.前年度までの研究では,被削材(銅結晶)の原子数が少い為,工具による着力点と被削材の固定端とが近く,変形が固定端の影響を受けて不自然になっていることが懸念された。そこで本年度は原子数を2倍にして同様の切削実験を行ったところ,工具逃げ面下の被削材の変形(いわゆる仕上面の残留ひずみに相当する)は結晶2格子分程度で意外に少く,従って前年度までの結果もほぼ信頼して良いことがわかった。但し以上の結果は被削材の結晶方位に依存し,場合によっては本年度程度の原子数が必要である。 2.銅とダイヤモンド結晶表面原子間のポテンシャルを量子力学計算により試算した。計算は制限および非制限ハ-トリ-フォック法により定式化し,基底関数としてダイヤモンド側はISおよびsp^3混成軌道の短縮ガウス型関数STO3Gを,銅側は有限要素法の形状関数を使用した。従って計算モデルは銅と炭素原子間をメッシュ分割した形のものであり,数値計算上は通常の分子軌道法と有限要素法との融合形式という新らしい試みとなる。計算の結果は,従来予想されていたように銅とダイヤモンド間の反応性が少いことを明らかにしたが,同時に原子間ポテンシャルが波打つという現象も現れた。ポテンシャルの波打ちはバルク結晶内ではフリ-デル振動として知られているものであるが,表面原子間についてもこれが実際に存在するか,あるいは今回の結果が有限要士分割の粗さに原因した計算誤差かは結論が出ていない。次年度以降,より細かなメッシュ分割で検討する予定である。 3.結晶配列の乱れをひずみ分布の形で表現する方法を開発した。
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