研究概要 |
本研究の目的は,1.ランダム媒質に囲まれた標的による散乱の理論を提案し,2.その理論に基づき,レ-ダ-受信波の統計量を算定するための一般式を導く.3.その一般式を代表的なレ-ダ-問題に適用し,数値解析を行うことによりレ-ダ-断面積,分解能,解像度に与える媒質の不規則性の影響を定性的かつ定量的に明らかにすることである. 課題1に対し,この種の散乱問題を境界値問題として解析できる方法を実際的観点から提案した.この方法によれば,この散乱問題は電流生成作用素を求める問題とランダム媒質中の波動伝搬問題に分けられる.前者は安浦の方法によって一般的に解決され,後者は多重散乱理論による素解(グリ-ン関数)の高次モ-メントの解析に帰着される. 課題2は次の4つの定式化により達成された.(2ー1)乱流媒質中の完全導体円柱の散乱断面積.(2ー2)合成開口レ-ダ-等のレンジ分解能を与える受信パルス波形.(2ー3)ホログラフィックレ-ダ-のアジマス解像度を示す再生像.(2ー4)多数の誘電体からなる媒質の巨視的特性(分布特性,等価誘電率,コヒ-レンス減衰率). 課題3に対する成果は次の通りである.(3ー1)強い乱流領域において,入射波の空間コヒ-レンス長lが導体中の径aより充分大きいとき,後方散乱断面積σは自由空間中のものと比べて約2倍に強められる.l〜aでは,導体断面の共振波長付近でσは異常に大きな値を示す.(3ー2)FMチャ-プ波を遅延フィルタでパルス圧縮する場合,乱流のパルス波形への影響は極めて小さくなり,理想フィルタでは除去される.(3ー3)乱流の影響が詳細に解析され,空間情報を各点で取得する際に受信振幅に重みを付けることで埋もれていた像を歪みなく再生できることを示した.(3ー4)ランダム分布の条件を定量的に明らかにし,等価誘電率及びコヒ-レンス減衰率に対し従来にない高精度な結果を得た.
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