研究概要 |
応力腐食割れ機構解明の一手法として歪電極法が用いられている。この方法は定電位下で材料に塑性変形を与え,得られる電流密度の変化から新生面における溶解挙動を明らかにしようとするものである。 一般に,材料に塑性変形を与えるとなされる塑性仕事の大部分は熱に変換され,試料の温度は上昇する。試料の温度上昇はその後の溶解挙動に大きな影響を与える。 本実験はSUS304鋼に熱電対をスポット溶接し,H_2SO_4ーNaCl溶液中において定電位下で塑性変形を与え,得られる温度と電流変化から歪電極法における塑性仕事の影響を検討した。塑性変形に伴う温度上昇は歪速度の影響を強く受け,歪速度が遅い場合には発生した熱が溶液に奪われて温度上昇が小さいのに対し,歪速度が速い場合には断熱効果により温度上昇が大きく,その値は歪量の増加と共に直線的に増加した。同時に得られる電流は歪量の増加と共に放物線的に増加した。同一歪速度および同一電位で溶液温度を変化させて同様の実験を行い,同一歪量における温度と電流密度の関係を求めた結果,良い直線関係が得られたのでこの直線式からそれぞれの歪量における電流値と温度上昇分に相当する電流値を引いた値の比より塑性仕事に伴う温度上昇の電流密度におよぼす影響を定量的に求めた。例えば歪速度4.2×10^<ー2>s^<ー1>では10%歪で得られる電流密度の約20%が塑性仕事の温度上昇に伴うものであり,この割合は前述のように歪速度に大きく依存した。従来から,歪電極法では非常に速い歪速度が用いられており,この観点から歪電極法を用いる場合には塑性仕事の効果を考慮しなければならないことが明らかとなった。
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