研究概要 |
鉄鋼材料の特徴は合金あるいは複雑な組織の複合体としての特性が実用的な意味を持つことであり、その高い強度と延性・靭性を生かした構造材料特性にあるが、一般に延性・靭性は強度と逆関係にある。本研究では、研究代表者らが、延性脆性・破壊靭性評価のために開発してきた微小試験片を用いる小型パンチ(SP)試験法(J.Nucl.Mater.,Vol.169(1989),p.225ー232;Vol.150(1987),p.194ー202)を適用して、大形試験片サイズにおいては現れ難い複合微細組織鋼の延性脆性遷移温度域における靭性支配組織を水素脆性感受性と併用して評価することを目的とした。供試材は、強靭性を担う残留オ-ステナイトFCC組織を高強度を担うベイナイト(試料(1))または焼きもどしマルテンサイト(試料(2))のBCC組織地に複合分散させた高強度強靭性2相鋼および高強度フェライト単相鋼(試料(3))の3種類を作成した。試料(1)は、2次均熱処理温度と保持時間を変えて下部べイナイト地に最大23%の安定オ-ステナイト組織を含有させて、良好な高強度ー強延性バランスを発現できた。残留オ-ステナイト量を変えてSP破壊エネルギ-延性脆性遷移曲線およびDBTTを求めた。SP破壊エネルギ-の確率密度、すなわちばらつきはいずれの温度においても最弱リンクモデルであるワイブル分布に従った。ベイナイト変態を制御して残留オ-ステナイト量を多くした複合組織鋼になると、単一ワイブル分布から複合ワイブル分布に移行し、ワイブル係数m値および破壊様式が変化し、延性破壊挙動の寄与が反映された。低温脆性破壊組織と整合・重畳する水素脆性感受性BCC組織を含む試料のSPエネルギ-の低下は、延性脆性域で顕著に現れたことから、SP水素脆性感受性手法による靭性支配組織の材料学的評価の指針がつかめた。
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