研究概要 |
Feー高Mn系形状記憶合金におけるトレ-ニング効果の機構および形状記憶特性の向上に関する基礎的知見を得るべく,FeーMnーSi合金のγ→ε正変態,ε→γ逆変態および繰り返し変態挙動に関する研究を行った.得られた主な成果を以下に示す. [1.繰り返し変態による変態温度および組織の変化] Ms点が室温以上にあるFeー24%Mnー6%Siを用いて,室温とAf点以上の573Kとで加熱冷却を繰り返し,変態温度および組織変化を観察した.その結果,Feー24%Mn2元合金と異なり,Feー24Mnー6Siでは,繰り返し変態によりMs点はほとんど変化せず,microstructure memory(εが前回の生成位置と同じ位置に生成すること)が発現することを見いだした.また,繰り返し変態後の母相γには転位等の格子欠陥はほとんど認められず,γ【double arrow】ε・正・逆変態は部分転位の運動は可逆的であることを明らかとした. [2.応力誘起εマルテンサイトの正・逆変態挙動] Ms点が室温直下にあるFeー33%Mnー6%Si合金を用いて,室温での引張変形により生成する応力誘起εマルテンサイトの組織観察,さらにε→γ逆変態挙動を観察した.TEM観察によりバ-ガ-スベクトルの解析から,応力誘起変態では,熱誘起変態と異なり,1種類の部分転位の活動で1つのε板が形成されることを明らかにした.また,未変態の母相γ中には数多くの積層欠陥が認められた.このような格子欠陥は,逆変態処理後の再度の形状変形時に応力誘起εマルテンサイトの核として働くと考えられる.さらに,応力誘起εマルテンサイトのγへの逆変態は,熱誘起εと比べて,より低温から開始するが完了はむしろ遅いことを見いだした. [3.形状回復率におよぼす繰り返し変態の影響] Feー33%Mnー6%Si合金に,77Kへの冷却による熱誘起εマルテンサイトの生成および873Kへの加熱によりε→γ逆変態を繰り返した試片の形状回復率を測定したところ,形状回復率に変化は認められず,トレ-ニング処理に必然的にともなうγ→ε繰り返し変態そのものは,形状回復率の向上に寄与しないことが明らかとなった. 以上1〜3の結果より,トレ-ニング処理による形状回復率の向上は,形状変形時における母相γ中への格子欠陥の導入に起因すると結論できる.
|