研究概要 |
近年,河川水・湖沼水・海水等に含まれる各種有害重金属元素の存在状態別定量に大きな関心が集まっている。これは,存在状態の物理的・化学的差異により,たとえ同一の元素であっても地球化学的挙動や水棲動植物に与える影響が大きく異なりうるからである。例えば銅の場合,水和イオンやヒドロキソ錯体が最も毒性が強く,一方,安定な錯体(フミン錯体等)を作ると毒性がかなり減少するといわれている.しかし,今日深刻な問題となってきた酸性雨などにより水のpHが低下した場合,フミン錯体は解離して有害な銅イオンを放出する恐れがある.そこで本研究では,河川水(ニュ-クリポアフィルタ-で予め濾過して懸濁粒子を除去)と合成試料のpHを塩酸,硝酸または硫酸で徐々に低下させ,フミン錯体の濃度変化を調べた.フミン錯体は,巨大網目構造の陰イオン交換体DEAEーSephadex Aー25カラムに選択的に吸着捕集し,脱着後黒鉛炉原子吸光法により定量した.脱着は超音波を照射することにより,迅速かつ定量的に行うことができた.その結果,天然・合成共にフミン錯体の解離挙動は極めてよく似ており,pH4までは酸性化の影響を敏感には受けない事がわかった. さらに水酸化インジウム共沈におけるフミン錯体の分離挙動を,水酸化鉄(III)共沈と比較しながら詳しく調べた.ケイ酸が多量に共存するとフミン酸やフルボ酸は共沈しなくなるが,錯体を生成していた重金属元素は完全に沈殿に捕集された.現在のところ,フミン錯体として共沈するのか,それとも錯体が解離して無機化学種として共沈するかは明らかではないが,共沈法はフミン錯体を含む全化学種の有力な分離濃縮法となりうることが分かった.
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