研究概要 |
低原子価ルテニウム錯体に特徴的なRu(0)【double arrow】Ru(II)触媒サイクルによる新規炭素ー炭素結合生成反応を検討し以下の新しい知見を得た。1.Ru(COD)(COT)(COD:シクロオクタジエン,COT:シクロオクタトリエン)を触媒するアセチレンとノルボルネン類との反応を検討し,線状多環化合物の合成を行った。ノルボルナジエン二量体を出発物質として用いまずその両側に[2+2]付加反応を行ない,7環化合物(1__〜)を85%の収率で得た。さらに(1__〜)をクアドリシクランと反応させることにより、一挙に13環化合物(2__〜)を合成し,(2__〜)の両側にさらに[2+2]付加反応させることにより15環化合物の合成に成功した。(3__〜)は分子量936,融点350℃以上の耐熱性を有する、剛直な擬梯子状化合物である。2.Ru(COD)(COT)錯体を用いて、ハロゲン化ビニルのビニル化反応を検討し、βーブロモスチレンとアクリル酸メチルとの反応により(E,E)ー5ーフェニルー2,5ーペンタジエン酸メチルを高収率で得た。また、パラジウムでは全く反応しない,βークロロスチレンも反応することを見出し,ルテニウムの高い酸化的付加能力を実証し,塩化ビニル誘導体とオレフィンとの脱塩化水素カップリング反応に道を拓いた。3.アセチレンとオレフィンとの鎖状二量化反応を検討し,Ru(COD)(COT)を触媒として用いたジフェンルアセチレンとN,Nージメチルアクリル酸アミドとの反応により、共二量化物である(2E,4Z)ー4,5ージフェニルペンタジエン酸アミドが95%以上の収率で得られることを見出した。これらの反応は、配位子、置換基、反応条件に極めて敏感であり、配位子、置換基と反応条件の適合性が良い場合には、収率、選択性共に100%に近いものが得られるが,少しでもこの条件から外れると収率は低下し事実上反応が停止することを見出した。即ち,ルテニウム錯体触媒を用いる場合にはパラジウム触媒の場合よりも,電子的および立体的因子の効果を鋭敏に反映する。
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