研究概要 |
重水素NMR法により異方性場に拘束されている分子鎖のコンホメ-ション解析を試みた。研究の対象は2つに大別される。すなわち,液晶に溶解した柔軟鎖と分子凝集体中の両親媒性分子である。 ネマチック液晶に溶解したnーヘキサンの水素間双極子結合定数と炭素数の異なるnーアルカン数種の四極子分裂幅の実験値を回転異性状態近似を用いて解析し,nーアルカン鎖は配向場で高い異方性を示すことを明らかにした。さらに,この解析法を液晶中のオキシエチレン鎖のコンホメ-ション解析に適用し,オキシエチレン鎖は選択的にCーC結合のトランス分率を高めることで自らを異方性場に適応させていることを明らかにした。 オクタノイック酸ナトリウム(C_8Na)1ーデカノ-ル(C_<10>CH)ー水の3成分系は様々な液晶相を発現するため,その相転移挙動は精力的に研究されてきている。本研究では,この3成分系のヘキサゴナル(E),ラメラ(D)逆ヘキサゴナル(F)相でC_8Na,C_<10>OH両分子について観測された重水素NMRデ-タを解析し,次のような結果を得た。 (C_8Na分子)CーC結合のトランス分率は極性基からメチル末端に向かい徐々に低下する傾向を示す。E相では極性基から2番目の結合が柔軟なのが特徴的であるが,D,F相ではこの結合はむしろ剛直である。 (C_<1O>OH分子)D相では2番目の結合は実質的にゴ-シュ状態に固定されている。それに隣接する結合も高いゴ-シュ安定性を示す。一方,その以外の結合は高いトランス安定性を示す。このため,C_<10>OH分子の極性基からメチル末端までの距離はC_<10>OH分子のものにほぼ等しく,これはラメラが平坦な表面をもつことに対応している。C_<10>OH分子のメチル末端は,C_8Na濃度の高いE相では動き易いが,C_<10>OH濃度の高いF相では運動が制限されていることを明らかにした。
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