研究概要 |
ヒリュウの自家受粉により作出した正常型,ヒリュウ型及び極矮性型の交雑実生を供試し,遺伝学的並びに特性に関する調査を行った。なお,交雑実生はアイソザイム分析により同定した。極矮性型と他の2つの型はほぼ1:3に分離したことから,ヒリュウは単劣性の極矮性遺伝子をヘテロで保持しており,極矮性実生は劣性ホモと考えられた。このことはヒリュウとカンキツ類のF_1実生がすべて正常型となることとも一致した。極矮性実生は5〜25ppmのジヘレリン処理及び正常なカラタチに接木した場合のいずれも伸長することから,ジベレリン生合成過程を支配する遺伝子突然変異によって,この極矮性遺伝子が出現したものと推測された。極矮性実生には組織学的並びに形態学的に他の型と異なる特性が確認された。 接木処理によって伸長した極矮性実生は正常型とヒリュウ型に区別された。このことからヒリュウ型と正常型の分離はヒリュウ型矮性遺伝子に支配されているものと考えられたが,その遺伝様式は充分解明できなかった。 カンキツ品種ヒシノットを交配すると,正常型とシノット型は1:1と15:1に分離し,シノットのセルフでは1:3に分離したことから,シノットは優性の矮性遺伝子をヘテロで保持するが,その発現には複数の変更遺伝子の関与が示唆された。他方,ブーケとカンキツ類の交配では正常型とブーケ型が2:1に分離したことから,ブーケは優性のブーケ矮性遺伝子をヘテロで保有するが,致死遺伝子等の関与が示唆された。他のカンキツには矮性遺伝子をみいだすことはできなかった。 最後に,ヒリュウ自家交雑実生の10%に幼樹開花性があることを発見した。優良なカンキツ用の矮性台育種において,ヒリュウ雑種の幼樹開花性実生の利用が効率的な育種に貢献するものと思われる。
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