研究概要 |
本研究はPenicillium citrinumのプロテア-ゼが塩基性タンパク質であるクルペインを特異的に加水分解することを見出したことにはじまる。 分子構造の研究 本研究のプロテア-ゼは分子量はSDSーゲル電気泳動,ゲルろ過でともに17,000を与えるもので,等電点は9.3のタンパク質である。本酵素は1モル当り1グラム原子の亜鉛をもつ金属プロテア-ゼである。本酵素はアミノ酸177残基からなる単純タンパク質と考えられ,その一次構造の約95%が決定された。一次構造は先般cDNAのヌクレオチドの配列からきめられたAspergillus oryzaeの中性プロテア-ゼIIと約70%の相同性をもつものであった。円二色性による二次構造解析から,本酵素はαーラセン構造を19%,βー構造を58%もつことが明かになった。金属を除いたアポ酵素を調製すると,αーラセン構造9%,βー構造は61%となり完全に失活した。アポ酵素にZnあるいはCoを添加すると、分子構造は元にもどり再活性化した。 作用機構の研究 本酵素は通常プロテア-ゼの基質としてよく利用するミルクカゼインに対してはあまり作用しない。然し、クルペイン,サルミン,ヒストンなどの塩基性タンパク質に著しく作用した。過ギ酸酸化インシュリンβ鎖の加水分解はTgr16ーLeu17結合によく作用し,次いでGlu13ーAla14とAla14ーLeu15の結合を切断した。アミノ酸5〜13からなる各種のペプチドに作用させたところ,ダイノルフィン,αーネオエンドフィン,ニュ-ロテンシン,αMSHのアルギニンのN末端側をよく加水分解した。この特異性が塩基性タンパク質をよく分解することにつながると結論した。ほかに,ダイノルフィンA,サブスタンスP,ニュ-ロテンシンなどのプロリンのC末端を加水分解した。また,ブラジキニン,αーニュ-ロテンシン,サブスタンスP,αMSHなどのFーX結合を加水分解することを明かにした。
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