研究概要 |
自然界に存在する5位の酸化されたジヒドロピラノン類は,一般に興味ある生物活性を示す一方で,構造的には多官能であり,合成する場合にも,官能基の導入順序や応用可能な反応は,自ずと制限される。本研究では,Aspergillus属の生産する特異な構造を有する抗生物質のAspyrone,ニレと共棲関係にあるカビ(Phomopsis oblonga)が生産し,ニレを食害するニレノキクイムシに対して摂食阻害作用を有するジヒドロピラノンのPhomopsolide Bを対象に,それらの光学活性体を合成し,合成品の生物活性に検討を加えることを主な目的とした。1.Aspyroneの合成:本化合物を,2種類のフラグメントのカップリングによって合成した。DーGlucoseから導いたαーPhenylselenoーγーtーbutyldimethylsiloxyーδーmethylーδーlactone lithium enolateとDーMannitolから誘導したαーTosyloxypropanalのジアステレオ区別型付加反応と,それに続くエポキシド形成反応を同一フラスコ内で連続的に行わせることで,目的物の骨格を組み立てることができた。その後2段階の反応を経て,光学活性Aspyroneを得た。各種スペクトル,融点,比旋光度は,すべて天然物のものと完全に一致した。以上で,世界最初の光学活性Aspyroneの全合成は完成した。2.Phomopsolide Bの合成:DーGlucoseを改変して得た側鎖部分と,Propargyl alcoholから誘導したPyrrolidylenaminoーesterをカップリングさせ,その後,官能基の変換を経て,Phomopsolid Bの合成を完了した。各種分析値は,天然物と一致した。3.Aspyroneの生物活性:Aspyroneに対する生物試験の一部として,数種の植物病原菌(イネいもち病菌,イネ紋枯病菌,コムギうどんこ病菌,コムギ赤錆病菌,エンドウ灰色かび病菌,トマト疫病菌)に対する抗菌力を調べた。
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