研究概要 |
天然林における物質循環は一般的には安定しているが,天然林が伐採された跡地での物質循環はきわめて不安定であり,その回復が重要な課題である。本研究では天然林を伐採した皆伐試験地での物質循環について調査を行い、以下の点が明らかになった。伐採跡地での地上部現存量は斜面上部では萌芽によって増加し,斜面下部では造林木による現存量の増加も大きかった。地上部現存量の増加にともなうリタ-フォ-ルの還元の増加は萌芽更新地で早く,スギ造林地ではリタ-フォ-ルの回復に時間がかかる。皆伐跡地での土砂・有機物の流出は比較的少なかった。降水による還元量は萌芽更新地とヒノキ造林地で大きく異なり,人工林では養分還元が少ない。また,森林生態系の外部循環としての物質収支を皆伐跡地全体でみると流出水量は約75%であった。この流出率は天然林(63%)に比べると大きく伐採の影響といえる。カリウムの収支は(ー)になり,チッ素の収支は(+)となった。一般に森林での物質収支はチッ素で(+),ミネラルで(ー)であるとされており,伐採跡地においてもその傾向は変わらなかった。これらの結果から伐採後の地上部現存量の増加は萌芽により回復初期から速く,リタ-フォ-ル量も萌芽林で初期段階から増加する。しかし,人工造林地では林分が閉鎖するまで還元の増加は遅い。従って,土境有機物は伐採直後に急速な分解・無機化や流亡によって一時減少すると考えられるが,渓流へ流出した土砂・有機物量が比較的少なかったことから外部循環には大きな変化はないであろう。皆伐跡地での物質循環元は地上部の養分集積がなくなり,伐採前の養分還元が断ち切られることに大きな問題があり,これを萌芽林のように速やかに回復することが重要である。本研究の結果からは皆伐跡をスギ等の人工造林地として施業することは物質循環の面から不利であると考えられる。
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