研究概要 |
スギ花粉症患者が1975年頃から急増した背景には,第2次世界大戦後の拡大造林によるスギ造林地が着花年齢に達したことがあげられている.空中スギ花粉の増加が主原因であったとしても,この問題を討議するための雄花・花粉の生産量に関する資料がほとんど見当らない.林学サイドでは,加齢によるスギ林花粉生産量の変化を解明する義務がある.調査はリタートラップ法で行った.調査林は立地条件が似かよった12〜90年生の11植栽林と約600年生の金剛峯寺墓地林である.豊作の1991年に開花した雄花数(林分当たり)は林齢の増加につれて増大するが,50年生以上の林分では,林分による違いはあるものの,頭打ちになった.林分間の変動を考慮すると,40年生をこえたスギ林の雄花数はほぼ等しいことがわかった.しかし,凶作年の1992年の雄花数は豊作年の100分の1程度に減少し,また林齢による差も認められなかった.本調査結果を基に空中スギ花粉の絶対量を考えると,豊作年には40年生以下の林分の齢級別面積と40年生以上の林分の総面積との和で決まり,凶作年にはスギ林の総面積に依存する.また将来,高伐期になっても,空中花粉はスギ林面積に比例し,いくら高齢に移行してもこの花粉量は林齢には無関係である.約600年生の老齢林では開花数は壮齢・高齢林と同程度であったが,未開花落下の雄花を含めると最多であった.この老齢林では,開花前に生理的な雄花の落下が認められた.花粉形成が終了したはずの12月〜翌年2月に落下した未開花雄花の大半は花粉のうを形成しておらず,花粉の形成も認められなかった.90年生以下の調査林でも冬季に未開花雄花が多数落下した.この雄花の大半は,黄白色で花粉を含んだ花粉のうをもっており,冬季の北西風による物理的落下と考えられた.故に,スギも600年という老齢になると雄花の生殖機能が低下するといえる.
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