研究概要 |
樹木は,根,樹幹および葉から構成されている.それぞれは,形態や生理機能を別にしているので,そこに含まれる微量元素の分布や存在形を異にすることは自明である.さらに,その分布等は樹種や,樹齢,生育環境によっても変化することが予想される.しかしながら,この分野の研究はあまり行われていない.この理由としては,試料の収集,とくに,根や樹幹部の難しさにくわえて,微量元素の定量方法にも問題があった.そこで,本研究では,樹種や生育環境などを考慮したうえ,できるだけ多種類の樹幹や葉を収集し,少量の試料から多くの元素が定量できる熱中性子放射化分析法や原子吸光法を用いて微量元素を定量した. 屋久島産スギついて,アルカリ金属であるナトリウム,カリウム,ルビジウム,およびセシウムの年輪の半径方向での分布は,それぞれの元素によって濃度レベルは異なるが,分布のパタ-ンは著しく類似していることが判明した.樹齢や生育環境の異なるスギ,さらに,アカマツやトドマツなど他の針葉樹の年輪中のアルカリ金属は,屋久島産のスギと同じパタ-ンを示した.これにたいして,広葉樹であるブナ科のミズナラ,クリ,コナラの年輪中での変化は,3種の樹木では類似しているが,針葉樹とは全く異なっていることが判った.また,海水中で生育するマングロ-ブ中のアルカリ金属は,上記の針葉樹や広葉樹とは異なる分布を示し,樹種によって,共通点と相違点があることが明らかになった. さらに,樹幹部や樹木葉に含まれるニッケル,マンガン,クロム,鉄,銅,アンチモンなどを定量し,生育土壌や人為的なimpactとの関係について検討し,環境指標植物としての樹木の有効性や利用上の問題点について明らかにした.さらに,熱帯の樹木葉の元素組成については,現在も分析及び解析を進めている段階にあるが,アルミニウム,マンガン,ナトリウム等の元素を特異的に集積している樹木葉を確認している.
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