1)成熟したサケの血清および生殖器官脂質のフラン酸について 魚類脂質のフラン酸は産卵期に肝臓から精巣へと移動し、精巣に多量に蓄積されることから、フラン酸が成熟期の生理と密接に関係すると推定される。フラン酸の生物作用の有無を明らかにするための基礎的な知見を得るため、成熟したサケの血清と生殖器官(雌体腔液、排卵後の卵巣組織、卵、精巣、精子および精漿)脂質におけるフラン酸の存在を調べた。血清ではフラン酸はステロ-ルエステルに約10%(総脂肪酸中)存在した。雌体腔液、排卵後の卵巣組織のスチロ-ルエステルおよび精漿中性脂質にもフラン酸が3.2ー4.5%存在した。とくに精巣トリアシルグリセロ-ルではフラン酸は総脂肪酸の42.8%を占めた。しかし、卵や精子にはフラン酸は検出されなかった。このことはフラン酸がサケの受精後の発達に対して直接的には関与せず、それよりも精巣組織の発達に関与することを示唆した。 また、サケ脂質に含まれるフラン酸として、これまで魚類脂質で確認されているものに加えて、F_2酸の異性体であるF_2'[MeF(11.3)]酸の存在を明らかにした。 2)クロガシラガレイ脂質のフラン酸について 海産魚脂質に含まれるフラン酸についての知見は少ないので、クロガシラガレイを試料として、組織や脂質成分におけるフラン酸の分布を調べた。筋肉、精巣にはフラン酸は0.3%(総脂肪酸中)以下であったが、肝臓では12.2%と高含量であった。肝臓脂質成分の中でステロ-ルエステルにフラン酸が53.1%と多量に含まれることを明らかにした。また、フラン酸の中でF_4酸が多量であることを確認した。
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