研究概要 |
サケ科魚類の真皮を構成する主要な結合組織タンパク質は繊維性のI型コラ-ゲンで,硬骨魚類に特有のサブユニット鎖(α3)を含むα1α2α3ヘテロ分子を形成している。しかし,サケ科魚類筋肉のI型コラ-ゲンはα3を欠く(α1)_2α2ヘテロ分子として存在する。ところで,サケ科魚類のα3は他の硬骨魚類のα3と相違して,従来の方法で単離することが難しく,不明な点が多い。 本研究においてはまず,シロザケ真皮I型コラ-ゲンのα3をCMーセルロ-スで分離する方法を確立し,単離したα3の化学組成とペプチドマップによる一次構造上の特徴を調べた。その結果,α3はα1とα2の中間的なアミノ酸組成をもつが,α1により類似していた。さらに,そのペプチドマップはα1,α2及びα3の間に著しい相違が認められた。しかし,α3はSDSー電気泳動でα1とほぼ等しい挙動を示し,α2とは明らかに異なっていた。次に,シロザケの鰾と硬骨(脊椎骨)からI型コラ-ゲンを単離し,化学組成とサブユニット組成を調べた。その結果,両器官のコラ-ゲンは真皮と筋肉のコラ-ゲンによく類似したアミノ酸組成をもつが,鰾のコラ-ゲンはプロリンとリシンの水酸化率の高いことが特徴的であった。また,両器官のコラ-ゲンはいずれもα3を含むα1α2α3ヘテロ分子として存在することが判明した。 以上のごとく,シロザケ諸器官のI型コラ-ゲンは調べた限りでは,筋肉のみがα3を欠くという器官特異性を示した。すなわち,筋肉ではα3遺伝子の発現が抑制され,他の脊椎動物I型コラ-ゲンと同じ(α1)_2α2ヘテロ分子として存在する。それゆえ,α3はα1と置換することが可能であり,α1から分化したと考えられる。しかし,硬骨魚類に特有のα3がI型コラ-ゲン分子内でどの様な機能を担っているのかは不明である。
|