本研究は、戦前期日本における農地市場の展開を、従来の市場における売買とその価格という視点ではなく、市場の成立それ自体に焦点を絞って、検討するための予備的研究である。そのさい最も重視した点は、農地市場の成立が、一般商品とは対蹠的に異なり、一定の空間的領域性によって制限されているのではないかという点であった。こうしたいわゆる市場[Fragmentation]を確認するために、農地の売買それ自体からの接近ではなく、(1)地主ー小作関係にみられる小作料の設定、(2)小作争議の発生範囲、(3)村落の空間的領域性、などに注目しながら、戦前期における統計的数値の収集に当たった。 またそうしたフレイムワ-クを理論的に確認するために、新古典派における市場論、人類学的な市場論、そしてマルクス派における市場論などの、理論的な展開をトレ-スする仕事も同時におこなった。しめされた大方の論文は、こうした理論的な予備作業に属するものであるが、そうした研究から、土地という特殊商品の商品化に当たっては、土地それ自体がもつ空間的な領域性が強く作用し、売買ー賃貸の限定性がみられ、かつそうした限定性が無視されることが架空の価格を成立せしめ、経済的過程に重大な弊害を及ぼすことが、理論的に認知されていたことが確認された。 なお収集された統計デ-タは、現在のところ約20県となっているが、そのデ-タ処理は、組替えなどの作業をも含めて継続されており最終的な結果を得る段階とはなっていない。ただ中間的には、農地の売買・地主小作関係の空間的広がり、などは村落の領域性に規定される面が強いという結果を得ている。かかる作業は、統計学的に厳密な処理を経過した後に公表されうるであろうとの感触を得ている。
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