研究概要 |
農産物輸入自由化の進展を経営環境悪化のもとで、日本農業の生き残り戦略として,生産コストの削減とならんで広い意味での農業の「高付加価値化」が不可欠な方向として考えられる。つまり,農産物を単に素材のままに販売するのではなく,加工したり,流通・消費の諸過程における差別化(品質差別化やレストランの直営など)を通じて付加価値を農業側にとり込むことを意味している。これらに品質や安全性のニ-ズに高度化・多様化の方向でアピ-ルすることによって付加価値を高めることは重要な課題となっている。しかし,現実にこれらの戦略を実行しそのメリットを実現することは決して容易ではなく,さまざまな理論上あるいは実践的課題が残されている。 そこで本研究では,日本農業の高付加価値化の意義と可能性あるいは課題について,理論的・実証的解明を行ない,今後の展開条件を明らかにすることとした。具体的には,第1に農業の高付加価値化に関する理論的検討としてその概念と手法の検討を行った。第2に,高付加価値化の具体的事例として,農産加工事業の成立要因と効果について,兵庫県神埼郡北農協におけるゆず加工を事例として分析を行った。第3に,蚕糸業のケ-スをとりあげ,生産段階における品種選択を通じてなされる高付加価値化について理論的検討および低コスト養蚕の長期戦略に関する検証を行った。以上から,消費者ニ-ズの的確な把握,生産・流通・消費の各段階における知識・情報集約的な対応が,高付加価値実現に向けての大きな鍵を握っていることを明らかにした。つまり、需要の堀りおこしと新規開拓が今後の戦略として重要な意味を持つことを解明したといえよう。
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