研究概要 |
本研究はニホンウズラの初期発生段階でみられた近交退化の原因を明らかにするために,初期胚の卵黄中遊離アミノ酸量,酵素活性値,タンパク,核酸量およびアミノ酸,ヌクレオシド(チミジン,ウリジン)の胚への取り込み量について生化学的な面から検討を加えた。生化学的な検討に先だって,胚死亡率について検討した。その結果,胚死亡率は近交群では高く,近交世代に伴い発生初期での胚死亡率は急激に増加することが認められた。また形態学的な検討によって近交群の初期胚では細胞分裂,増殖能の低下することが明らかとなった。卵黄中遊離アミノ酸量は近交群が無作為交配群に比べて低く,近交3世代目で両群間に大きい差が認められた。取り上げたヘキソキナ-ゼ,ホスホリラ-ゼ,グルコ-マ6リン酸デヒドロゲナ-ゼの活性値はいずれも近交群が無作為交配群より有意に低い値を示し,近交世代に伴い減少する傾向が認められた。またこれらの酵素活性値と胚発育との間には密接な関連のあることが示された。近交群では無作為構配群に比較して,タンパク量,DNA,RNA量はいずれも低い値を示し,タンパク/DNA,RNA/DNAの値も孵卵後2日目胚では近交群が低い値を示した。さらに初期胚でのタンパク,核酸合成能力を明らかにするために,アミノ酸,ヌクレオシドの取り込み量について検討した。その結果, ^<14>Cーグリシン,ロイシン,グルタミン酸および ^3Hーチミジン,ウリジンの取り込み量はいずれも近交群が群作為交配群に比較して有意に低い値を示した。なお,初期胚におけるRNAの分析は技術的な問題から実験結果を得るに至らず,今後もひきつづき検討する予定である。 以上の生化学的知見から,近交群における初期発生段階での胚死亡,発育遅延の増加は胚タンパク合成に必要な卵黄中遊離アミノ酸の不足や酵素,タンパク,核酸合成に関連した代謝機能の低下に起因したと考察した。
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