研究概要 |
マウスコロナウイルスJHM株は,若令ラットに脳内接種すると,急性脳脊髄炎や亜急性の脱髄性脳脊髄炎を引き起こし,ウイルス性脱髄性疾患のモデルとして研究されている。我々は,ウイルスの神経毒性に関与する因子を明らかにし,神経毒性が発現されるメカニズムを解明する目的で実験を行なってきた。ウイルスの神経毒性には,ウイルス粒子表面のスパイク(S)蛋白の関与がいくつかの実験により示唆されている。我々は,ラットに対して神経毒性が極めて高いJHM変異株のS蛋白をその遺伝子の塩基配列を決定することにより推測し,既に報告のある神経毒性を示さないJHM株と比べ,141個のアミノ配挿入部位があることを明らかにした。さらに,この毒性の強いS蛋白を組換えワクシニアウイルスを用い,哺乳動物由来培養細胞で発現し,その蛋白性状について検討した。組換えウイルスにより発現したS蛋白は,分子量,抗原性,免疫原性の点でJHM変異株感染細胞で産生されるS蛋白(authentic S蛋白)と異なるところはなかった。またauthentic S蛋白と同様,細胞内で合成後S_1(96K)とS_2(86K)に解裂し,細胞融合を引き起こした。この細胞融合活性は,一般にウイルス病原性との関連が強く,今後細胞融合活性に関しその活性部位を明らかにする予定である。組換えワクシニアウイルスを用いて発現したS蛋白は,量的にはバキョロウイルスを用いた場合と比べ劣るものの,生物活性,抗原性などの点でauthentic S蛋白と高い類似性を示し,今後S蛋白の持つ多くの興味ある生物活性について解析されることが期待される。
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