研究概要 |
【研究目的】本研究の所期の目的は,申請者らが開発したcAMP細胞内注入法によってgap junctionを遮断し,網膜双極細胞受容野形成のシナプス機構を解明することであった。ところがcGMPもまた同様な遮断効果を持つことが判明したので,急遽研究を最近トピックスとなっているnitric oxide(NO)の作用の解明に転換した。すなわちNOはcGMPの合成酵素guanylate cyclaseのactivatorであって,内皮細胞由来血管弛緩因子もNOであること,また神経系においては長期増強,記憶,神経ネットワ-クの形成などに関与すると云われており,gap junctionに対するNOの効果を明らかにすることは緊急かつ重要と考えたからである。 【実験方法・結果・考察】NOはLーアルギニン:シトルリン代謝回路で発生するので,アルギニンを細胞内微小電極から電気泳動的にカメおよびコイの網膜水平細胞に注入した。少量のアルギニンの注入によってgap junctionが遮断され,細胞の入力抵抗は著明に上昇した。従って微小電極から電流を流すと細胞は容易に分極し,正確なIーV曲線を記録して,光応答の逆転電位は0mV付近と測定された。また蛍光色素Lucifer Yellowを細胞内に注入たところ,アルギニンによってdye couplingが完全に遮断されることが形態学的にも証明され,NOの作用に新たなデ-タを加えることが出来た。本法は環状ヌクレオチド注入法に比して容易に施行することが出来,将来網膜以外の神経系や非神経系組織のgap junctionの機構と,その作用の解明に広く応用されることが期待される。
|