研究概要 |
生後1〜3日令のラットから,脊髄に状在神経を介して下腿皮膚の一部がつながった標本を作製した。脊髄と皮膚を別々の潅流槽に固定し,人工脳脊髄液で潅流した。脊髄ニュ-ロンに発生する電位変化はL3前根から吸引電極を介して記録した。カプサイシンなどの発痛物質を皮膚の潅流系に短時間注入すると,L3前根から約30秒間持続する脱分極性の反射電位が記録された。カプサイシン誘発電位はモルヒネ,エンケファリン,タキキニン拮抗薬(スパンタイド)の脊髄側適用により抑制され,プロスタグランジンE_1,E_2の皮膚側適用により著しく増大した。以上の結果からカプサイシン誘発電位は侵害反射の一種で,この電位の発生にタキキニンが伝達物質として関与していることが示唆された。一方,末梢におけるタキキニンの作用には血管拡張,血漿蛋白の漏出,肥満細胞からのヒスタミンやセロトニンの遊離作用などが挙げられているが十分明らかにされていない。今回はタキキニンの痛み反応増強作用について検討した。5〜10μMのサブスタンスP,ニュ-ロキニンA(NKA),センクタイドを予め皮膚側に潅流適用するとカプサイシン誘発電位が増強され,その作用はNKAが最も強く,洗滌後1時間も持続した。次にタキキニンの作用が一次知覚ニュ-ロン末梢端に対する直接作用であるかを明らかにするため低Ca液(Ca0.1mM_2Mg8mM)中で検討した。皮膚の潅流液を正常液から低Ca液に変えると前根電位のゆらぎとカプサイシン誘発電位の著しい増大が見うれたが,NKAの痛み反応増強は再現よく認められなかった。以上の成績からタキキニンの痛み反応増強作用はタキキニンが知覚ニュ-ロン末梢端に作用するのではなく,肥満細胞その他の細胞上のNKー2受容体を介する作用に起因するものと考えられる。今後NKー2アンタゴニストを用い,タキキニンの痛み反応増強作用が抑制されるかを検討する。
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