研究概要 |
肝細胞の最終分化の分子機構を解析するための第一段階として、セリンデヒドラタ-ゼ(SDH)遺伝子の転写調節因子、SDHの5'上流、-759/-249と-252/+123をプロ-ブとし、胎仔肝と成熟肝の核抽出液を用いて、DNaseIフットプリントを解析した。その結果、1。-595/-565(site A),-102/-56(site B)に結合する因子の存在が胎仔肝と成熟肝核抽出液に認められた。2.それ以外に、-10/+2(site C)に結合する因子が、胎仔肝に特異的に存在することが判明した。Site A,BおよびCの塩基配列には、既知の数種の肝特異的転写因子の中で、結合する可能性があるのは、HNFー2様因子のみであり、このことは、site A,BおよびCに未知の因子が結合していることが予想される。特に、胎仔肝に特異的なsite Cについては、SDH遺伝子の転写抑制に作用する因子が結合している可能性が示唆された。また、site Bについては、フットプリントパタ-ンにおいて、胎仔と成熟肝に相違が認められたので、このsiteに異なる因子が結合することも予想された。現在、site A,B,およびCの配列を含むオリゴヌクレオチドを用いて、結合の競合実験ならびにゲルシフトアッセイを行い、解析を進めている。 次に、分化機能を維持しているとされている肝癌細胞(H4IIE,Hep G2)のSDHの発現を酵素活性とmRNAレベルで調べた。これらの細胞では、全くSDHを発現していないことが明かとなった。さらに、SDH遺伝子の5'上流約2kbの下流にchloramphenicol acetyltransferase遺伝子連結した融合遺伝子をこれらの細胞に導入し、CAT assayを行った。CATの発現はみとめられなかった。このことは、初代培養肝細胞では、SDHーCAT遺伝子が発現されることと対比される。このような肝癌細胞におけるSDH遺伝子の発現のOFFは胎仔肝と同様の機構によるのか、という点についても併せて解析する予定である。
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