研究概要 |
従来レンズ特異蛋白質であると考えられてきたαークリスタリンのうち,そのサブユニットであるαBークリスタリンがレンズ外の種々の臓器においても発現がみられ,特にアレキサンダ-病の疾患脳にこの蛋白質が異常に蓄積することが分かり,この蛋白質の神経疾患での挙動が注目されるようになった。そこで本研究では中枢神経系におけるαBークリスタリンの発現調節機構を明らかにし,その役割を検討するとともに,アレキサンダ-病の遺伝子解析を行い,その病因の解明の一助とすることを目的とした。まず,αBークリスタリンのmRNAの構造を解析し,そのcDNAとgenomic DNAの塩基配列を決定した。その結果,ラット脳では5'ー先導配列の長さの異なる2種類のmRNAが発現しており,単一遺伝子内に2つのプロモ-タ-領域があることを示唆するデ-タを得た。この短いmRNAの転写開始点の約50bp上流と約390bp上流に熱ショック調節配列がみられた。グリア系の培養細胞を用いた誘導実験でNorthern blottingの結果,αBークリスタリンはホル環-ルエステルや熱ショックでその短かいmRNAが選択的に発現増強を受けた。ついで,アレキサンダ-病の遺伝子解析をPCR法にて行った。しかしそのコ-ティング領域と5'上流に存在する調節領域には変異が認められず,さらにこの疾患では低分子量熱ショック蛋白質の蓄積がある事が分かり,αBークリスタリンの異常蓄積はグリア細胞に非常に亢進したストレス反応が起った結果と考えられた。また免疫組織化学染色法によってαBークリスタリンが種々の疾患脳においてその病的状態に対して反応性に発現が増強してくる蛋白質である事を示し,遺伝性疾患である結節性硬化症ではこの蛋白質の発現亢進がその特徴的な組織像と関連している所見を得た。今後αBークリスタリンの脳内発現の意義を生化学的に検討することは,神経細胞のストレス反応を理解する上で重要なテ-マになると考えられる。
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