研究概要 |
我々はret癌遺伝子cDNAをメタロチオネインプロモ-タ-に結合し,マウスに導入することにより17匹のトランスジェニックマウスを得た。このうち1匹に神経芽細胞腫を,4匹に神経堤由来色素細胞の真皮内における異常増殖を認めた。神経芽細胞腫を発生したマウスは不妊であったため系統化できなかったが,色素細胞の異常を認めた4匹のマウスはそれぞれ系統化に成功した。このうち3系統において高率に色素細胞腫瘍が皮膚の真皮内や眼の脈絡膜等に発生した。この腫瘍はヌ-ドマウスに移植すると増殖が極めて遅く,組織学的にも良性腫瘍と判断された。 ret癌遺伝子産物による色素細胞の腫瘍化の機構を生化学的に解析する目的でトランスジェニックマウスに発生した色素細胞腫瘍より細胞株の樹立を行なった。得られた細胞株(以下Melーret)は原発腫瘍と異なりヌ-ドマウスに接種すると極めて強い浸潤像を示し、悪性の性格を有していた。ret癌遺伝子産物はチロシンキナ-ゼ活性を有すると考えられるので、まずトランスジェニックマウスに発生した原発腫瘍とMelーret細胞におけるチロシン燐酸化蛋白を比較、検討した。抗フォスフォチロシン抗体を用いたウェスブロット法にて検索した結果、両者に共通に観察される135kd,125kd,100kdの燐酸化蛋白とMelーret細胞に特異的に存在する85kdの燐酸化蛋白を検出した。このうち100kdのバンドはret蛋白そのものであった。これらの燐酸化蛋白の細胞内局在を調べたところ,135kdと125kdの蛋白は膜画分と細胞質画分に,100kdと85kd蛋白は膜画分のみに存在することが判明した。さらに抗フォスフォチロシン抗体を用いた蛍光抗体法にてMelーret細胞を染色すると細胞膜のみが強く染色されることより,ret蛋白を介したシグナル伝達は細胞膜にて開始されることが示唆された。
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