研究概要 |
ヒトスジシマカ9系統とトウゴウヤブカ11系統のスナネズミを用いての糸状虫Brngia pahangi感受性を調べた。スナネズミの血中のミクロフィラリアの密度は約100〜130m/10ulであった。タイ,マレーシアを含む9系統のヒトスジシマカはこの糸状虫には感受性は皆無であった。また,トウゴウヤブカの11系統では感受性に変異がみられた。すなわち,カナダ系統では48%,タイ系統75%,台北100%,宗谷(北海道)92%,宮古(岩手)53%,男鹿(秋田)47%,佐渡60%,長崎66%,対馬(長崎)33%,ru突然変異60%,Sru72%であった。そこで,感受性の選択実験を数系統を用いて行ったところ,次の結果を得た。sru系統をより感受性の方向に選択したところ,3〜5世代で70%から90〜95%の感受性を示した。一方,その反対方向〔非感受性へ〕に選択した男鹿,宮古,佐渡,対馬系統は3〜7世代の選択で感受性の変動がみられた。そのうち,男鹿系統は6〜7世代に至って,10〜29%に低下した(本来,47%であったが)。これらの実験から,この糸状虫感受性は遺伝的にポリジーンによって支配されると考えられた。一方,遺伝地図の比較から,ネッタイシマカの糸状虫感受性遺伝子座fmと相同な遺伝子がトウゴウヤブカにもM/m(性決定因子)とMe(malic enzyme)との近傍に存在すると思われる。その他に,感受性に関係する遺伝子が存在すると推察されるが,これらの実験では把握されなかった。今後の課題として,ネッタイシマカの場合と比較して,probeのhybridizationを応用して感受性遺伝子の染色体上の位置の特定化,さらに生理生化学的な検討が必要であると思われる。
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