ペシロトキシンを多く生産する動物由来のPaecilomyces lilacinusを用いて、感染実験を行った結果、感染サイトでは酵母型が多く観察された。また、トキシンの生産と菌の形態学的相関性を検討した結果、中性からアルカリ性で、酵母型の菌形態を示すときに、多くのトキシンが生産されることが明らかとなり、本菌が二形性真菌に属することが明らかになった。Paecilomyces lilacinusの臨床および土壌分離のほとんどの株が、ペシロトキシンを生産することがわかったことから、他のPaecilomyces属の菌種についてもトキシンの生産性を検討した。その結果、調べた9菌種の27株で、トキシンに対する感受性から、Paecilomyces javnicusおよびPaecilomyces marquandiiでペシロトキシンの生産性が示唆された。これらの2菌種の5株について、ペシロトキシンの生産性を詳細に検討した結果、P.marquandii(4株)およびP.javanicus(1株)では、培地成分や培養条件の検討にも関わらず、HPLCおよび生物学的なアッセイ法のいずれにおいても、トキシン生産は確認できなかった。P.javanicusではその培養ろ液中に有機溶媒で抽出可能なペシロトキシン以外の物質の生産が観察された。これらの研究結果はペシロトキシンの生産がP.lilacinusに特異的な現象であることをより強く示唆するものと思われた。P.javanicusの産生する活性物質については、その生産性が極めて悪いことから、現在、培養条件の検討を進めている。P.lilacinusとP.marquandiiのミトコンドリアのDNAの制限酵素の切断パタ-ンの比較においては、Hind IIIおよびEcoRIでの切断で両菌種間に明かな違いがあることを見いだし、さらに詳細な研究を継続している。新たに土壌から分離したP.lilacinusの研究から、本菌種が2つのグル-プに細分されることを明らかにした。またさらに、この細分のもととなる色素を精製し、菊花状の結晶(XMーY2)として得ることができた。XMーY2物質については、その構造研究を行っているが、本物質が強い抗真菌および抗細菌活性を有していることを確認している。
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