研究概要 |
単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染によって細胞膜が新たな生物学的活性を発現することと関連して,2種の研究項目について考察した。 (I)HSV感染細胞の表面膜に発現するFcレセプタ-により,感作ヒツジ赤血球が吸着(HAD)する現象について検討し、次の成果を得た。 (1)感染後期の単層培養細胞で,gCの出現率からほぼ100%の感染が成立している条件においても,HADは70〜90%に止どまった。(2)同様感染細胞をペルオキシダ-ゼ-抗ペルオキシダ-ゼ・ウサギIgG抗体で処理したのち,金コロイド標識ヤギ抗ウサギIgG抗体で標識し,走査電顕で観察したところ,HAD陰性の感染細胞表面も標識され,感染細胞はすべてFcRを発現していることが示された。(3)感染細胞のHAD活性は,細胞表面上にmicrovilliが多数密生しており、しかもウイルス粒子数が比較的少ないか,あるいは認められない細胞において顕著に発現した。 以上の事実から,HSV感染細胞によるHAD活性の発現には,FcRの表面膜上発現のほかに,microvilliが赤血球に密着するという,より生物学的機構の関与もまた重要であることが明らかとなった。 (II)ヒトヘルペスウイルス6(HHVー6)感染細胞における膜系とウイルス粒子との相互関係,特に粒子の細胞内輸送機構を一層明確にするために,HHVー6感染細胞の電顕観察を継続実施し,以下の結果を得た。 (1)細胞外のすべてのビリオンと,ほぼすべての細胞質内粒子は,明瞭なテグメント(tegument)を保有するが、核内粒子はこの構造を保有しない。したがって,HHVー6のテグメント獲得部位は細胞質である。すなわち,核から被膜,脱被膜を通じて細胞質に出た裸粒子が,この部で直ちにテグメントを獲得し,細胞質内の空胞膜部でエンベロ-プを被って成熟粒子となり,逆貧食過程の機構で空胞と共に運ばれて細胞表面に達し,空胞の開裂によって細胞外に放出される機構が確実となった。
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