研究概要 |
T細胞は胸腺内で分化・成熟するが,この際,自己反応性T細胞が除れりるとともに自己MHC拘束性の性質を獲得する(ポジティブ選択)ことでT細胞レパ-トリ-が形成される。この際自己反応性T細胞の除去はT細胞レセプタ-を介したシグナルによるDNA切断死(プログラム死)が重要であると考えられているが、この現象が抗原特異的にも起こりうるのか,さらにはこの死を避けることがポジティブ選択に関連するのか検討するとともに,このDNA切断死に関与する遺伝子の検索を一部試み,以下のような結果を得た。 (1)抗CD3抗体や抗レセプタ-抗体で胸腺細胞を処理すると約200塩基単位のDNA切断がみられ,細胞死に至る。同様の現象をブドウ球菌エンテロトキシンβ(SEB)(主にV_B8と反応する)の存在下で観察できないか,胸腺臓器のin vitroの系で試みた。若干の差を観察し得たが,対照群でも常にin vitroではDNA切断が観察されるため,明確な結論は得られなかった。そこで,胸腺細胞のうちCD4^+8^+細胞の株化を試み,V_β6(Mls^aに対応)またはV_β8陽性のクロ-ンを樹立し,再検討しつつある。(2)抗CD4あるいは抗CD8抗体で前処理すると,DNA切断がある程度抑制されることを見い出した。このときP56^<lck>がりん酸化されるが,その結果としてdownーregulationのため,レセプタ-からのシグナルが抑制されるのか検討中である。(3)レセプタ-を介したシグナルで死に至るハイブリド-マを用い,differential hybridization法によりプログラム死に関与する遺伝子の検索を試みた。抗CD3抗体で刺激後3時間のmRNAよりcDNAライラブリ-を作製し,これと非刺激及び刺激細胞から得られたcDNAとのハイブリダイゼ-ションで差異のみられる遺伝子をクロ-ニングし,遺伝子の同定を行った。目下のところ,すべて既知の遺伝子であり,直接関与すると思われるものは得られていない。
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